改めて!【2026年12月施行】日本版DBSとは?対象事業者・制度の概要・導入された理由を行政書士が徹底解説

あなたの事業所は準備できていますか?
「日本版DBS」という言葉を耳にする機会が増えました。
学校や保育所だけではありません。
放課後等デイサービス、児童発達支援、学習塾、スポーツクラブ、スイミングスクールなど、子どもと関わる事業を運営している方であれば、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
一方で、
- 「結局、日本版DBSって何?」
- 「前科を調べる制度でしょう?」
- 「うちは対象になるの?」
- 「何を準備すればいいの?」
という疑問を持ったまま、制度の全体像がよく分からないという事業者も少なくありません。
実際、私が事業者の方とのお話で、「前科確認をすれば終わりだと思っていました」という声をよく耳にしますし、「日本版DBSって何??」という声が、施行まで5か月のこの時点でも、まだまだ聞かれます。
しかし、そのままにしておくわけには・・・。
改めて。日本版DBSは前科を確認する制度ではなく、子どもを性暴力から守るための仕組み全体を整える制度です。
そのため事業者には、犯罪事実確認だけでなく、安全確保措置や研修、相談体制の整備、情報管理など、さまざまな対応が求められます。
この記事では、法令やこども家庭庁のガイドラインをもとに、
- 日本版DBSとはどのような制度なのか
- なぜこの制度が導入されたのか
- どの事業者が対象になるのか
について、制度の全体像から分かりやすく解説します。
日本版DBSとは?前科照会だけではない「子どもを守るための制度」
まず結論からお伝えします。
日本版DBSは、「前科を調べる制度」ではありません。
正式名称は、
「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」
という非常に長い法律です。
令和6年(2024年)6月19日に成立し、令和8年(2026年)12月25日に施行されます。
では、なぜ「日本版DBS」と呼ばれているのでしょうか。
これは、イギリスの**Disclosure and Barring Service(DBS)**という制度になぞらえて付けられた通称です。
イギリスでは、子どもや要支援者と接する仕事に就く人について、一定の犯罪歴を確認する制度が長年運用されています。
日本でも同様の考え方を取り入れたことから、「日本版DBS」という呼び名が定着しました。
ただし、日本の制度はイギリスの仕組みをそのまま導入したものではありません。
日本版DBSは、犯罪歴の確認だけでなく、子どもを性暴力から守るための環境づくりまで含めて事業者に求める制度です。
「前科照会制度」という理解では不十分
日本版DBSについて最も多い誤解は、
「採用時に前科を確認する制度」
という理解です。
もちろん、犯罪事実確認は制度の重要な柱の一つです。
しかし、それだけでは法律の目的は達成できません。
実際、この法律では事業者に対して大きく4つの取組が求められています。
- 子どもの安全を守るための安全確保措置
- 対象者の犯罪事実確認
- リスクがある場合の防止措置
- 犯歴情報を適切に管理する情報管理措置
つまり、日本版DBSは「採用時にチェックして終わり」の制度ではなく、子どもが安心して過ごせる環境を継続的に整備する仕組みなのです。
行政書士からのワンポイント
日本版DBSへの対応は、犯罪事実確認だけでは完結しません。就業規則や募集要項の見直し、研修計画、相談窓口、情報管理規程など、複数の制度を連動させて整備する必要があります。「前科確認だけ準備すれば大丈夫」と考えていると、施行直前になって慌てることになりかねません。
なぜ日本版DBSは導入されたのか
「子どもを守るため」であれば、これまでも法律はあったはずです。
それでも新たな制度が必要になった背景には、大きく3つの理由があります。
理由① 子どもの性被害が依然として深刻だから
警察庁が公表した資料によると、子どもを取り巻く性犯罪は依然として深刻な状況にあります。
近年は、従来のような身体的な接触だけでなく、
- SNSを利用した接近
- 自画撮り被害
- オンライン上での性的被害
など、被害の形も大きく変化しています。
さらに重要なのは、統計に表れる数字が氷山の一角であるという点です。
犯罪白書では、性的被害を受けても警察へ届け出ていないケースが多数存在することが示されています。
つまり、「事件として表面化した件数」だけを見ても、実際の被害実態を十分に把握することはできません。
理由② 教育・保育の現場には構造的なリスクがあるから
こども家庭庁は、教育や保育の現場には、他の職場にはない3つの特徴があるとしています。
それが、
- 支配性
- 継続性
- 閉鎖性
です。
例えば学校や学習塾では、先生と子どもの間に指導する・されるという関係があります。
放課後等デイサービスやスポーツクラブでは、同じ子どもと長期間にわたって接することになります。
さらに、更衣室や個別指導など、大人と子どもが一対一になる場面も少なくありません。
このような環境では、子どもとの信頼関係を少しずつ築きながら境界線を越えていく「グルーミング」が起こりやすいとされています。
加害行為は突然始まるわけではありません。
相談に乗る、特別扱いをする、プレゼントを渡す、二人だけの秘密をつくる――そうした行動が積み重なり、周囲が気づいたときには深刻な被害につながっているケースもあります。
だからこそ、日本版DBSは事件が起きてから対処するのではなく、「起こさせない環境づくり」を重視しているのです。
理由③ これまでの制度では防ぎきれなかったから
実は、日本版DBSができる前にも、教員や保育士についてはデータベースによる確認制度がありました。
しかし、それぞれの制度は業界ごとに分かれており、情報が十分に連携されていませんでした。
例えば、
- 教員免許を失った人が学習塾へ就職する
- 保育士登録を取り消された人がスポーツクラブで働く
といったケースを防ぐことは困難でした。
こうした課題を踏まえ、教育・保育分野を横断して子どもの安全を守る仕組みとして、日本版DBSが整備されることになったのです。
日本版DBSの対象となる事業者は?
「うちの事業は対象になるのだろうか」
これは、多くの事業者が最初に抱く疑問です。
結論から言えば、日本版DBSでは対象事業者が「義務対象」と「認定対象」の2つに分かれています。
事業者に求められる4つの義務とは?
日本版DBSというと「性犯罪歴の確認」が注目されがちですが、それは制度の一部に過ぎません。
法律では、事業者に対して次の4つの措置を講じることを求めています。
- ① 安全確保措置
- ② 犯罪事実確認
- ③ 防止措置
- ④ 情報管理措置
この4つは、それぞれ独立したものではなく、子どもを性暴力から守るための仕組みとして相互に連携しています。
順番に見ていきましょう。
① 安全確保措置 ~最も重要なのは「事件を起こさせない仕組みづくり」~
日本版DBSで最も重要なのは、安全確保措置です。
「事件が起きた後に対応する」のではなく、「事件が起きない環境を整える」ことが法律の考え方だからです。
具体的には、事業者には次のような取組が求められます。
子どもの異変を早期に把握する仕組み
日頃から子どもの様子を観察し、定期的な面談やアンケートを通じて、小さな変化にも気付ける体制を整えます。
相談しやすい環境づくり
相談窓口は社内だけでなく、外部相談窓口についても周知する必要があります。
子どもや保護者だけでなく、職員同士が相談できる環境も重要です。
性暴力が疑われた場合の対応ルール
「誰が」「どこへ」「どのように」報告するのか。
あらかじめルールを決めておかなければ、実際の場面で適切な対応はできません。
職員研修
制度の説明だけでは不十分です。
日本版DBSでは、
- 子どもの権利
- グルーミング
- 不適切な行為
- 早期発見
- 相談対応
などを含む研修が求められています。
行政書士からのワンポイント
研修資料を一度作成して終わりではありません。制度やガイドラインの改正、新しい事例なども踏まえ、定期的に内容を見直していくことが重要です。
② 犯罪事実確認 ~採用時だけでは終わらない~
日本版DBSで最も注目されているのが「犯罪事実確認」です。
対象業務に従事する人について、こども家庭庁を通じて一定の性犯罪歴を確認する制度です。
ただし、ここでも誤解があります。
「応募者全員を自由に調べられる」わけではありません。
確認できるのは、対象業務への従事が決まった段階で、法律に基づく手続きを経た場合に限られます。
また、
- 有罪判決を受けた一定の性犯罪
- 法律で定められた対象期間
だけが確認対象です。
不起訴や示談で終わった事案などは対象になりません。
そのため、犯罪事実確認だけで子どもを守ることはできず、安全確保措置と組み合わせて運用することが重要になります。
③ 防止措置 ~「おそれ」がある段階で動くことが重要~
日本版DBSでは、実際に事件が起きてからではなく、
「児童対象性暴力等が行われるおそれがある」と判断した段階で対応を求めています。
例えば、
- 犯罪事実確認の結果
- 子どもや保護者からの相談
- 調査の結果
- 不適切な行為が確認された場合
などです。
状況に応じて、
- 配置転換
- 対象業務から外す
- 一時的な業務変更
などの措置を検討します。
一方で、事実確認が終わる前に一方的な懲戒処分を行うことは適切ではありません。
子どもの安全と職員の人権、その両方を守る視点が求められます。
④ 情報管理措置 ~「前科情報」を扱う責任は重い~
犯罪事実確認で取得する情報は、極めて重要な個人情報です。
漏えいや不適切な利用があれば、本人の人生に重大な影響を及ぼします。
そのため事業者には、
- 情報管理責任者の選任
- 情報管理規程の整備
- 閲覧者の限定
- 保存期間の管理
- 適切な廃棄
などが義務付けられています。
「取得すること」よりも、「適切に管理すること」のほうが重要だと言っても過言ではありません。
施行までに準備しておくべきこと
「まだ施行まで時間があるから大丈夫。」
そう考えている事業者もあるかもしれません。
しかし、日本版DBSへの対応は、一朝一夕でできるものではありません。
ここでは、優先順位の高い準備を5つご紹介します。
① 自社が対象事業者か確認する
まずは、自社の事業が義務対象なのか、認定対象なのかを確認しましょう。
対象業務に該当する職員の範囲も整理しておく必要があります。
② 就業規則・各種規程・募集要項等を見直す
実は、多くの事業者が見落としがちなのがここです。
就業規則には、
- 不適切な行為の禁止
- 犯罪事実確認への協力
- 配置転換
- 懲戒事由
など、日本版DBSを踏まえた内容を盛り込む必要があります。
募集要項や誓約書についても見直しが必要です。また日本版DBSに必要な各種規程も作成が必要です。
行政書士からのワンポイント
就業規則の改定は時間がかかります。労使協議や届出が必要になる場合もあるため、「施行直前にまとめて対応」はおすすめできません。また就業規則の作成は社労士か弁護士の先生にお願いしましょう。さらに各種規程(情報管理規程・児童性暴力対処規程等)の作成についても、それぞれの分野に精通している専門の士業の先生にご相談を強くお勧めします。
③ 「不適切な行為」の基準を決める
どこまでを不適切と考えるのか。
これは、事業所ごとに整理しておく必要があります。
例えば、
- 私的なSNSでのやり取り
- 業務外で二人きりになること
- 私物のスマートフォンで子どもを撮影すること
など、現場の実態に合わせてルールを明文化しておくことが大切です。
④ 職員研修を計画する
制度は、管理者だけが理解していても意味がありません。
実際に子どもと接する職員一人ひとりが、日本版DBSの考え方を理解していることが重要です。
⑤ GビズIDなどの事前準備を進める
犯罪事実確認には、GビズIDやシステム登録などの準備も必要になります。
直前になると手続きが集中することも予想されるため、早めに確認しておきましょう。
まとめ
日本版DBSは、「前科を調べる制度」と理解されがちですが、その本質は子どもを性暴力から守るための組織づくりにあります。
犯罪事実確認だけでは、子どもを守ることはできません。
日頃から相談しやすい環境を整え、職員への研修を行い、不適切な行為を防ぐルールを明確にし、必要な情報を適切に管理することまで含めて、日本版DBSへの対応です。
施行日を迎えてから慌てるのではなく、今から少しずつ準備を進めていくことが、子どもたちの安心・安全につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 日本版DBSとは、簡単にいうとどんな制度ですか?
日本版DBSは、子どもを性暴力から守るための制度です。
正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」で、2026年12月25日に施行されます。
犯罪事実確認だけではなく、安全確保措置や相談体制、研修、情報管理なども含めて、子どもが安心して過ごせる環境づくりを事業者に求める制度です。
Q2. 学習塾やスポーツクラブも日本版DBSの対象になりますか?
対象になる可能性があります。
民間教育事業として認定対象となるためには、
- 対面で指導すること
- 標準的な修業期間が6か月以上であること
- 指導者が3人以上いること
など、法律で定められた要件を満たす必要があります。
個々の事業内容によって判断が異なるため、自社が対象となるか確認することが重要です。
Q3. 放課後等デイサービスや児童発達支援は対象ですか?
はい。
放課後等デイサービスや児童発達支援などの指定障害児通所支援事業は、法律上の義務対象事業者です。
そのため、日本版DBSで定められた措置を講じる義務があります。
Q4. パートやアルバイトも犯罪事実確認の対象になりますか?
雇用形態だけでは判断されません。
正社員だけでなく、パート、アルバイト、派遣職員、請負、ボランティアなども、子どもと継続的に接する対象業務に従事する場合は、対象となる可能性があります。
重要なのは雇用形態ではなく、「どのような業務を担当するか」です。
Q5. 前科がある人は、必ず働けなくなるのでしょうか?
いいえ。
日本版DBSで確認されるのは、法律で定められた一定の性犯罪について、有罪判決を受けた場合に限られます。
また、刑の種類によって対象期間も異なります。
すべての前科が対象となるわけではなく、窃盗など性犯罪以外は対象外です。
Q6. 採用面接の前に、応募者の犯罪歴を確認できますか?
できません。
犯罪事実確認は、対象業務への従事が決まった段階で、法律に基づく手続を経て行います。
本人の同意があっても、採用前の段階で自由に照会することはできません。
Q7. 就業規則も見直す必要がありますか?
はい。
日本版DBSへの対応では、
- 不適切な行為の禁止
- 犯罪事実確認への協力
- 配置転換
- 懲戒事由
などについて、就業規則や関連規程の見直しが必要になる場合があります。
募集要項や誓約書もあわせて確認すると安心です。
Q8. 日本版DBSへの準備は、いつから始めればよいですか?
施行日直前ではなく、できるだけ早い段階で準備を始めることをおすすめします。
対象業務の整理、就業規則の改定、研修計画、情報管理体制の整備などは時間がかかります。
特に就業規則の見直しは、労使協議や届出が必要になる場合もあるため、余裕をもって進めましょう。
Q9. 日本版DBSに対応しないと罰則はありますか?
情報の不正取得や漏えいなどには刑事罰が設けられています。
また、必要な措置を講じていない場合は、報告徴収や是正命令、認定の取消し、公表などの対象となる可能性があります。
制度への対応は、法令遵守だけでなく、利用者や保護者からの信頼にも関わる重要な取組です。
Q10. 行政書士に相談できることは何ですか?
行政書士は、日本版DBSへの対応に必要な各種規程や書類の整備をサポートできます。
例えば、
- 対象事業者かどうかの確認
- 情報管理規程の作成
- 不適切な行為に関する社内ルールの整備
- 研修資料・運用マニュアルの作成支援
- 日本版DBS全体の導入支援
など、制度を現場で運用できるよう支援します。