― 被害はどこで、誰によって起きているのか ―

データで読む「子どもの性被害」の今

― 被害はどこで、誰によって起きているのか ―

※本記事は、警察庁「令和7年における少年非行及び子供の性被害の状況」、法務省「令和7年版犯罪白書」、文部科学省・こども家庭庁の公表資料をもとに作成しています。数字はいずれも警察の検挙・認知や行政処分をベースにしたもので、表に出ていない被害(暗数)はさらに多いと考えられます。

はじめに:数字は「横ばい」でも、中身は大きく変わっている

「子どもの性被害」と聞いて思い浮かぶのは、見知らぬ大人に連れ去られる、あるいはお金で買われる——そんな場面かもしれません。

ですが、最新のデータが映し出す現実は、その印象とずいぶん違います。件数の総数は横ばいでも、その“中身”はこの10年で大きく入れ替わりました。「対面で会う・お金を介す」被害が減る一方、「撮る・撮らせる・送らせる」被害と、「身近な大人が自宅で侵す」被害が増えているのです。

これは、子育て中の保護者だけの問題ではありません。教員・保育士、放課後児童クラブや児童福祉施設の職員、塾やスポーツの指導者——子どもに関わるすべての大人が知っておきたい変化です。本記事では「どこで(場所)」「誰によって(関係)」「どんな経路で(入口)」という3つの視点から、子どもの性被害の“今”を読み解きます。

1. 全体像:被害の重心が移動している

大きな流れを一枚にすると、こうなります。

「件数が減った」と聞いて安心するのは早計です。減ったのは買春などの一部で、性暴力や撮影被害はむしろ増えているからです。

2. 数字で見る最新状況(警察庁)

まず、主だった数字を見てみましょう(いずれも令和7年)。

特に注目すべきは、自画撮り被害の中心が中学生であること、そして盗撮(撮影罪)が子どもの性被害で最大の被害カテゴリーになっていることです。

3. どこで起きているのか(場所)

性暴力は「住宅」が最も多い

子どもが被害者となる不同意性交等・不同意わいせつの発生場所を見ると、住宅が突出しています。

つまり、ホテルや屋外よりも「家の中」で起きる性暴力のほうが多い。これは、次章で述べる「身近な人物による被害」と地続きです。

盗撮は「学校・公衆浴場」など日常の場で

一方、児童ポルノの盗撮被害(164人)では、学校・幼稚園が59人で最多(住宅50人を上回る)。盗撮は、公衆浴場やスポーツ施設など、子どもが日常を過ごす場所で起きています。現場にとって、盗撮は“どこか遠い話”ではなく、足元で起こり得る被害なのです。

4. 誰が加害者なのか(関係)

家庭内:ほぼ「保護者」、特に継父・内縁の夫

家庭内で起きる性的虐待の加害者(検挙人員)を見ると、

と、ほぼすべてが男性の保護者です。さらに白書の分析では、実父よりも「養父・継父・母の内縁の夫」など血縁でない同居男性で性的虐待の比率が高いことが示されています。家庭という密室で、最も身近な大人から受ける——だからこそ、最も表に出にくい被害です。

性犯罪全体では「顔見知り」が増えている

性犯罪全体(全年齢)で見ても、不同意性交等で「面識のない相手」による割合は、かつての約7割から 26.7%まで低下。今や約7割が顔見知りによる被害です(一方、不同意わいせつは痴漢・盗撮など見知らぬ者型が依然過半)。「知らない人=危険」という従来の図式だけでは、被害の多くを見落としてしまいます。

5. 被害につながる「3つの経路」

子どもの性被害は、入口で大きく3つに分けると理解しやすくなります。

① オンラインで誘い出される(SNS)

見知らぬ相手とSNSで知り合い、会って被害に至る——この「会う入口」としてはSNSが最大です。かつての出会い系サイトはほぼ姿を消しました。

こうした被害の多くは、加害者がいきなり性的な要求をするわけではなく、「グルーミング」——時間をかけて子どもの信頼や好意を得て、悩み相談や褒め言葉で心理的に取り込み、徐々に性的な会話・自画撮りの要求・対面へと誘導していく手口——を経て起こります。だからこそ「怪しい人かどうか」では見抜けず、子ども自身も“被害だと気づきにくい”のが特徴です。

※「オンラインゲームが主因では?」と思われがちですが、データ上はゲーム経由は0.3%とごく僅か。中心はあくまでSNSです。

② 身近な大人との対面(家庭・学校など)

自宅や学校など、現実の関係の中で起きる接触型。加害者は、保護者や教員・指導者といった、子どもが日常的に信頼を寄せる身近な大人であることが少なくありません。信頼関係を悪用される分、被害が表面化しにくいのが特徴です(家庭内の実態は第4章、学校・施設は第6章で詳しく取り上げます)。

③ 物理空間での盗撮(見知らぬ相手)

公衆浴場・学校・店舗などで起きる盗撮。被害総量ではこれが最大です。

ポイント:「会う入口」としてはネット(SNS)が最大ですが、被害の総量で見ると、現実空間の盗撮が最大です。「ネットの被害ばかり」というわけではありません。

6. 学校・保育所など「施設」の問題と日本版DBS

警察の統計は、加害者が「教員か」「施設職員か」を区別しません。そこを補うのが文部科学省・こども家庭庁のデータです。

子どもに関わる仕事に就く方・施設運営者にとっては、「採用時の確認」だけでなく、死角をつくらない動線・複数体制・相談しやすい雰囲気づくりといった日常の環境整備が、これまで以上に問われます。

7. 保護者・従事者ができること

データから見えてくる、現実的な対策のヒントです。

【保護者の方へ】

【従事者・施設運営者の方へ】

共通の相談先:警察(#9110/緊急時110番)、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891)、児童相談所(189)。

8. もし子どもが打ち明けてきたら ― 最初の対応

子どもが被害を打ち明けるのは、勇気を振り絞った一度きりかもしれません。最初の大人の反応が、その後の回復と、被害の立証の両方を大きく左右します。

なお従事者は、通告は“確証”がなくてもよいことを共有しておきましょう。児童虐待は「受けたと思われる」段階で通告義務があり、結果として誤りであっても責任を問われません。迷ったら抱え込まず、まず専門機関につなぐことが、子どもを守ります。

まとめ

「知らない大人に気をつけて」という従来の発想だけでは、今の被害の実態には追いつきません。ネットの入口・身近な大人・日常の場所——この3つの視点を、家庭と現場の双方で共有することが、子どもを守る第一歩です。

そして、子どもが打ち明けてくれたとき、最初に「あなたは悪くない」と返せること。それが、被害を止める最後の、そして最大の砦になります。

今年の冬に、こども性暴力防止法(日本版DBS)が施行されますが、施設だけ、学校だけを切り取って個別に判断するのではなく、包括的な視点が子どものサポートには重要です。特に、逆に施設・学校等は家庭での虐待や性暴力を見守る役目を担っていることから、相互で子どもの権利擁護を構築しなければならないかと考えます。

出典

(注)本記事の数値は検挙・認知・行政処分ベースであり、実際の被害はこれより多いと考えられます。また、出典により集計の単位・対象年・範囲が異なるため、異なる資料の数値を単純に足し合わせることはできません。

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