スマホで遺言は可能?遺言のデジタルトランスフォーメーション(DX化)②デジタル遺言の最新動向
現在、デジタルデータで作成した遺言方式「保管証書遺言」創設の議論が始まろうとしています。
国会で可決・成立すれば遺言の本文もデジタル機器(PC・スマホ等)で作成することが可能に。
法制審議会が公表した要綱(修正案)をもとにどのようなものかみていきましょう。
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1 現在の自筆証書遺言は・・・
よく利用される遺言形式として、
1,自筆証書遺言 と
2,公正証書遺言 があります。
このうち2,の公正証書遺言については、2025年10月から公証人役場に出向かなくとも
オンラインで作成することが可能になりました(詳しくはブログ「タヌキのひとりごと」遺言のデジタルフォーメーション①をご覧ください)
対して、自筆証書遺言については、一足早く2019年に財産目録をPCで作成することが可能に、また
遺言の紛失・改ざん等防止の為、法務局が預かるといった「自筆証書遺言保管制度」が2020年よりスタート。従来より作成の手間が省け、紛失・改ざんのリスクも軽減されました。
しかしながら、遺言書本文は厳格なルールのもと、ご本人が自筆で書かなければなく、また保管制度においても遺言の内容までは法務局では確認しませんので、誤記があっても開封の時になるまでわからず、最悪、誤記の部分が無効となり遺産分割協議が必要になる可能性があるという問題が生じていました。
2「保管証書遺言」の誕生か?:デジタルデータが正式な遺言に
今年の1月20日、法制審議会によってまとめられた民法改正要綱案では、新たな遺言方式である「保管証書遺言」の導入が盛りこまれました。これまで日本の遺言は「紙」が絶対的な前提でしたが、ついに「電磁的記録(デジタルデータ)」が法的な市民権を得ることになります。
「遺言は、自筆証書、保管証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。」
(民法第967条 改正案)
(民法第967条 改正案)
ここで重要なのは、この「保管証書遺言」が単にデジタルで作成できるだけでなく、法務局の「遺言書保管官」による管理を成立要件としている点です。電磁的記録として作成された遺言は、遺言書保管ファイルに記録されることで初めてその効力を生じます。
これは情報の「保存性」と「真正性」を国家レベルのインフラで担保する試みです。物理的な劣化や紛失、あるいは悪意ある第三者による破棄リスクをテクノロジーで封じ込め、現代社会に即した「資産としての意思」を保護する画期的な一歩と言えるでしょう。
3 役所に行かなくていい?ウェブ会議での本人確認がスタート?
これまでの法的儀式において「本人の出頭」は揺るぎない原則でした。しかし、身体的理由や居住地の制約、あるいはパンデミックのような事態において、窓口への出頭は大きな壁となります。
改正案では、遺言書保管官による本人確認や遺言内容の口述において、「映像と音声の送受信(ウェブ会議)」による手続きが導入される予定です。ただし、これは単なる自動化ではなく、条文には「当該申出を相当と認めるとき」という文言があり、ウェブ会議の利用はあくまで遺言書保管官の裁量による「適切な判断」が前提となります。
さらに、運用面では「遺言者の周囲に他人がいないことの確認」が厳格に求められます。これは、画面の外からの不当な圧力や干渉を排除するための法的ガードレールです。利便性と信頼性の精緻なバランスの上に、リモート手続きという新たな選択肢が築かれようとしています。
4 ついに「脱ハンコ」が遺言の世界にも?
日本の法的慣習の象徴である「ハンコ(押印)」が、最も厳格さが求められる遺言書の世界から姿を消そうとしています。
改正案では、自筆証書遺言の財産目録(第968条)や秘密証書遺言(第970条)、さらには緊急時の特別方式における押印要件の廃止が盛り込まれました。この「脱ハンコ」は、単なる簡素化ではありません。
デジタル化された遺言においては、印影の代わりに「電子署名」がその真正性を担保します。また、身体的な理由で署名が困難な場合でも、「氏名の記載」という代替手段が用意されます。これにより、印鑑文化のない海外に居住する方や、手が不自由な高齢者であっても、他者の手を借りずに自らの意思を法的に完成させることが可能になるようです。
5 相続人への自動通知システムの導入
せっかく遺言を残しても、死後に発見されなければその意思はご遺族には届きません。それを防ぐため、今回の改正案は、遺言を「守る」だけでなく、確実に「届ける」ための仕組みが導入されようとしています。
特に注目すべきは、相続人等への通知システムです。相続人の一人が遺言書の閲覧などを行うと、遺言書保管官は「他のすべての相続人等」に対し、遺言書を保管している旨を通知しなければなりません。これにより、一部の相続人だけが内容を知り、他の相続人に隠蔽するといったトラブルを構造的に防ぎます。
また、遺言者があらかじめ指定した人物に対し、死亡後に自動で通知を送る「死亡後の通知申出」も可能になるようです。
6 デジタルが「家族の絆」を守る時代へ
今回、目指すものは、単なる事務手続きの効率化ではありません。テクノロジーを法制度に組み込むことで、身体的な制約や物理的な距離といった「アナログな壁」を取り払い、一人ひとりの最期の意思を、より確実に、より尊厳ある形で次世代へ繋ぐためのアップデートです。
また、この要綱案では「死亡危急時遺言」や「船舶遭難者遺言」において、従来の口頭伝達に代わり、録音・録画を用いた新方式が認められられるようです。
デジタルシフトがもたらす新しい遺言のカタチは、私たちの「終活」という概念を、もっと前向きで、温かなものに変えてくれるものとして期待できるものとなりそうです。
あなたは、自分の大切な人たちに、どんな形で最後のメッセージを残したいですか?
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